魚を扱うにあたり、やはり最低限の食中毒及びその防止について知識が必要だろう。
まあ、基本的に我々はお客に食品を提供する立場ではないので、食中毒に陥った所で自分自身が苦しむだけではあります。
でも、それが嫌なんじゃ!
と、いう事で何からいきましょう?
念のため記しておきますが、おいらは専門家ではありませぬ。
細かい細菌の分類や医学的なお話は専門書でご確認くださいまし。
食中毒の体験
ここでは個人的な体験を記す。
当たり前か?
個人的に食中毒は2回ほど経験がある。
もっと正確に言えば3回かもしんない。
いや、軽微な下痢を含めるともっとあるかも。
以下の2件は相当に激しいもので、お年寄りや子供だった場合は危険な状態だったかも知れない。
家族を含め、自分以外に食品を供給する場合は細心の注意が必要である。
その1:スーパーのアイナメ
スーパーで買ったアイナメを刺身で喰って当たった・・・・
生食用とは記していなかったが、どーしても刺身が喰いたかったんだな。
で、いつものように捌いて喰った。
しばらくして風呂に入ったのだが、なんだかムカムカする。
直後に吐き気に襲われ嘔吐。
呼吸が荒くなり、激しい下痢。
ふと腕を見ると蚊に噛まれた跡が巨大化したようなジンマシン。
よくよく見ればほぼ全身にジンマシン。
ちょっとコレやばいかも状態。
結局、入院までは行かなかったものの3日間ほど会社を休むことになった。
なかなかしんどかったぞ。
原因菌やウィルスは不明。
その2:友人から買った生ガキ
岡山の日生にツテのあった友人に頼んで、5,000円で調達出来る限りのカキを送ってくれいと頼んだ。
養殖のカキでも、カキ棚から落ちて海底で育つカキは大型で旨いのだとか。
発砲の箱に入っていたカキはそれはそれは大量だった。
もうね、1人でガツガツ喰った。
マイナスドライバーでこじ開け、スダチ絞ってもぐもぐ・・・んみゃい!
2日目、もぐもぐ・・・んみゃい!
3日目、マイナスドライバーでこじ開け・・・ん?少し白っぽいか?まあ、いいや、もぐもぐ・・・
で、しばらくして、強烈な嘔吐に下痢がおいらを襲った。
2日前から既にかなりの量の生ガキを喰っていたので今さらノロウィルスが原因では無かろう。
何らかの細菌の増殖により食中毒を起こしたものと思われる。
回復までには数日間を要した。
何が食中毒を引き起こすのか?
細菌性食中毒
細菌による食中毒は、細菌が産生した毒素によるもの(毒素型)と細菌感染によるもの(感染型)、腸管内で細菌が繁殖して産生された毒素によるもの(生体内毒素型)に分かれる。
細菌は常に身の回りに常に存在します。
作った料理は早めに喰うのが原則さ。
そして、汚れた手であちこち触ると2次感染するので常に清潔を心がけよう。
掃除や洗浄は繰り返す事によって一定のレベルをキープできるのだ。
1.感染型食中毒
- サルモネラ
よく登場しますね、サルモネラ。
サルモネラは哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、両生類などほとんど全ての動物が保菌している。
卵だけじゃないのよ。
気のせいか?海水域の魚介類については記載が見当たらない。
ザリガニやカメなんかは昔からサルモネラに注意しましょうって言われていましたよね?
スッポン等の調理には注意が必要でしょう。
サルモネラは乾燥に比較的強く、環境中での生存率が高い。
一方で、熱に対しては弱く60℃で15分間(もしくは75℃で1分間以上)の加熱で死滅する。
あくまで、中心部の温度。鶏卵などの場合、先に凝固した卵白が卵黄への熱伝達を妨げるので意識して調理する必要がある。
サルモネラによる食中毒の発症には10⁵~10⁵個以上の菌の摂取が必要とされてきたが、子供や高齢者などでは10²~10³個程度の摂取で発症する事がある。
サルモネラに限らない事ではあるが、つけない(汚れた手や器具であちこち触らない)、増やさない(調理後は早めに食べる)、殺す(しっかり加熱)が肝要。
だいたい、保存している間にサルモネラが増殖するんだから、すぐに喰うべし。
【症状等】
潜伏期は6~48時間で、悪心、嘔吐を初発症状とし、続いて腹痛と下痢が起こる急性胃腸炎。
発熱を伴う重症例では時に死亡する事がある。
回腸粘膜上皮細胞内に侵入し、空胞中で増殖し細胞障害と毛細血管透過性亢進を起こすため下痢が起きると考えられている。
- カンピロバクター
カンピロバクターは人畜共通感染症の病原体で家畜やペット、野生動物などほぼ全ての動物が保菌している。
幸いな事に魚類は入っていない・・・とは言え、2次感染の可能性を踏まえて知識は持っておこう。
各種畜肉の中でも、市販鶏肉にカンピロバクター・ジェジュニ(カンピロバクターの1種)による感染頻度が高い為、最も重要な原因食品となっている。
カンピロバクター25℃以下では増殖しない(死ぬ訳ではない)、乾燥に弱い、65℃以上で数分で死滅する。
カンピロバクターは摂取菌数が100個程度でも食中毒を発症する。
なかなか感染力が強いね。
畜肉の生食は魚よりはるかに食中毒リスクが高いぞ。
処理工程も完全に他人任せだしね。
【症状等】
潜伏期は2~7日で倦怠感、筋肉痛、発熱を前駆症状として発症しその後、水様性下痢、腹痛、嘔吐が起こる。
多くの場合、1週間程度で回復する。
まれに敗血症や髄膜炎を併発する事がある。
カンピロバクターは腸管粘膜上皮細胞への定着因子と上皮細胞内への侵入因子であるが、その実態はよく分かっていない。
- 下痢原性大腸菌
大腸菌は周毛性鞭毛をもった無芽胞、通性のグラム陰性桿菌(かんきん)で、人や動物の大腸に常在する。
ほとんどの大腸菌には病原性は無い。しかし、一部の菌株が病原性を発揮する。
病原性を持つ大腸菌(発病性大腸菌)が引き起こす主な疾患は下痢、尿路感染症、敗血症、髄膜炎等。
病原性大腸菌とは人に感染症を起こす性質を持っている全ての大腸菌を指す。
この病原性大腸菌の中の下痢原性大腸菌について述べる。
1)腸管病原性大腸菌(EPEC)
腸管病原性大腸菌(EPEC)はおそらく家畜の腸管内に存在し、主に食肉などの畜産食品を介して人に感染すると思われる。
通常、10⁶~10⁸個以上摂取すると発症する。
人体に侵入した腸管病原性大腸菌(EPEC)は腸管の粘膜上皮細胞に強固に付着し増殖する。そこで上皮細胞微繊毛を破壊し細胞骨格を障害して下痢、腹痛、嘔吐、発熱などを起こす。
予防は基本的には”細菌性食中毒予防三原則”。
菌を付けない、菌を増やさない、菌をやっつける。
生の食肉やレバーなどを摂取しない事も重要な予防法である。
食品の製造施設等ではHACCP(ハサップ)の導入による予防対策が求められる。
【症状等】
下痢、腹痛、嘔吐、発熱。
2)腸管侵入性大腸菌(EIEC)
腸管侵入性大腸菌(EIEC)は赤痢と同様な病原性を持っている。この菌が自然界から検出される事はほとんど無い。
腸管病原性大腸菌(EPEC)と異なり、50~100個程度の摂取でも発症する事がある。
この菌はヒトからヒトへの2次感染も起こす。
人体に侵入した腸管侵入性大腸菌(EIEC)は腸管の粘膜上皮細胞内に侵入し、増殖する。増殖した金は隣接する細胞を次々と侵襲、破壊して潰瘍を形成する。その結果、細菌性赤痢と同様の下痢、腹痛、発熱、濃粘血便などの症状が出る。
予防については、上記”腸管病原性大腸菌(EPEC)”と同様かとおもうが、こちらはヒトからヒトへの二次感染も起こりうるので、患者が発生した場合、その糞便や吐物で汚染されたものの消毒や石鹸による手洗いの徹底なども重要。
【症状等】
赤痢と同様の下痢、腹痛、発熱、濃粘血便など。
- エルシニア・エンテロコリチア
グラム陰性の短桿菌で発育最適温度は28℃~29℃。
エルシニアには6つの生物型と58種のO抗原があるが、食中毒のほとんどは血清型O3と生物型4の組み合わせを持った菌株によって起こっている。
エルシニアは自然界に広く分布しているが、血清型O3はブタの腸内容物から検出される事が多い。したがって、屠畜の際に内容物で汚染された豚肉が主要な感染源になる。
エルシニアは冷蔵庫内(0℃~5℃)でも増殖するので豚肉などの長期冷蔵保存は安全ではない。
【症状等】
潜伏期間は2~5日。
虫垂炎様の右下腹部痛、発熱、白血球増多。下痢より軟便が多く、嘔吐も少ない。
- A群溶血性レンサ球菌
レンサ球菌は直径1㎛~2㎛のグラム陽性球菌で、β溶血性を示す。IとLを除くA~Uの19群に分類されており、このうちA群溶血性レンサ球菌が食中毒の原因ともなる。
A群溶血性レンサ球菌はは化膿レンサ球菌とも言われ、化膿性扁桃炎、上気道炎などの原因となるが、時に食品を介して感染し、食中毒を起こす。
A群溶血性レンサ球菌による食中毒の原因は非衛生的な食品の取り扱いや、これに感染している調理従事者からの食品汚染、それに続く不十分な温度管理であると考えられる。
調理後の食品の適切な温度管理が重要。
【症状等】
おもな症状は、発熱、咽頭痛、頭痛、倦怠感などで嘔吐や下痢などは少ない。
A群溶血性レンサ球菌による食中毒の集団発生は卵サンドイッチ、仕出し弁当などが原因となっている。
発生件数は少ないが、1事例あたりの患者数が多い事が特徴。
- エロモナス・ヒドロフィラ及び、エロモナス・ソプリア
エロモナスは水環境中や家畜の腸管内に存在するグラム陰性桿菌で魚介類や肉類が汚染される。
【症状等】
腹痛、下痢、おう吐、発熱。
一般に軽傷であるが、ときに赤痢様の下痢を起こす事がある。
- プレシオモナス・シゲロイデス
プレシオモナスは、河川、湖沼の水や泥底中に分布している。
食中毒事例において、腸炎ビブリオやサルモネラなどと共に検出される事が圧倒的に多い。
【症状等】
多くの患者は下痢のみの軽症
2.毒素型食中毒
- ボツリヌス菌
複数の型があり、A~Gの7型に分類される。
ボツリヌス菌はその辺に存在する。
土壌、河川、湖沼などに芽胞(耐久性があり休眠した状態)として存在する。
よって、肉類や野菜などの多くの食品がボツリヌス菌の芽胞に汚染される可能性がある。
ボツリヌス菌は嫌気性(空気を嫌う)の細菌である。
増殖に適した嫌気条件になると芽胞が発芽し増殖し、ボツリヌス毒素を産生する。
ちなみに、滋賀のフナ寿司は嫌気性発酵食品である。
ご近所にお裾分けする際には必ず先に食べてみて、問題無いか確認するのだそう。そして、その旨を相手に伝えるのだそうだ。
嫌気性を好むボツリヌス菌を意識しての事だろう。
このボツリヌス菌を原因とする食中毒は死に至るケースがあり注意が必要である。
ボツリヌス菌の病原因子は菌が産生するボツリヌス毒素。この毒素はタンパク質系の神経毒で80℃、30分の加熱で失活する。
ボツリヌス毒素は摂取後、小腸上部で吸収され血流中に入り副交感神経支配性の神経結合部に到達しアセチルコリンの遊離を阻害して毒作用を発揮する。
【症状等】
初期症状はめまい、視力低下。続いて言語障害、嚥下困難、4肢の麻痺がおこる。
ボツリヌス食中毒は致死率が高く、最終的に呼吸停止で死亡する事が多い。
- 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は健康なヒトの鼻腔、咽頭、腸管などから高率で保菌されている。多くは化膿性疾患の原因となるが、食中毒の原因にもなる。
黄色ブドウ球菌による食品汚染の主要な原因は食品取扱者である。特に、調理従事者の手指の黄色ブドウ球菌による化膿痩巣が最も重要な感染源である。その他、調理器具、食材、ふきん、などからの食品汚染も起こる。
黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品中で増殖した菌が産生したエンテロトキシンを食品と共に摂取する事によって起こる。
エンテロトキシンはタンパク質毒素ではあるが、100℃で加熱しても失活しない為、摂食前に食品を加熱しても食中毒の予防効果は無い。
黄色ブドウ球菌の潜伏期は短く、1~6時間である。多くは喫食後3時間前後で発症する。
【症状等】
悪心、嘔吐、腹痛、下痢などが起こる。
経過は良好で通常1~3日で回復する。
3.生体内毒素型食中毒(中間型)
生体内毒素型食中毒は食品に混入した細菌が腸管内で増殖して産生した毒素によって引き起こされる。
- ウェルシュ菌
ウェルシュ菌はグラム陽性桿菌の嫌気性菌であり、酸素に曝露されると急速に死滅するが、その芽胞は死滅しない為、食中毒の原因となる。
この菌による食中毒は特に大量調理加工品(カレーやシチュー)が多く、加熱や沸騰によって食品の中心部が無酸素の状態になり、食品の温度が50℃まで下がると発芽して急速に増殖を始める。
食品中で増殖したウェルシュ菌は、食べ物とともに胃を通過して小腸内で増殖後、芽胞への移行時にエンテロトキシンを産生し、下痢などの症状を引き起こす。
ウェルシュ菌は健常者の腸管内に常駐する細菌であり、家畜などの糞便や魚からも検出される。
【症状等】
腹痛、下痢.、下腹部がはることが多い。症状としては軽い。
- セレウス菌
セレウス菌はグラム陽性桿菌の通性菌であり、環境の酸素濃度と関係なく増殖する。この細菌の病原性は易熱性の下痢毒(エンテロトキシン)と耐熱性の嘔吐毒(セレウリド)の2種類によるもの。
下痢型、嘔吐型ともに重症化する事は稀であり、大半は軽症。
国内で発生しているセレウス菌による食中毒の殆どが嘔吐毒による。
セレウス菌は土壌の表面から10cmまでの表層に多く分布し、芽胞として存在している。
土壌由来の芽胞は空中にも浮遊して存在している。健康な人の14~15%の糞便からも検出される。
【症状等】
腹痛、下痢(下痢型)、吐き気、おう吐(おう吐型)
- 腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは菌体の一端に1本の鞭毛を有する通性のグラム陰性桿菌。
好塩菌の一種で、3%食塩存在下でよく増殖するが、真水中では速やかに死滅する。15℃以下の温度では増殖しない。
腸炎ビブリオは沿岸の海水域に生息している菌で、外洋ではほとんど検出されない。冬季は海底の泥中で越冬し海水温が17℃以上になると増殖を始めると言われる。
経口摂取された菌は腸管内で増殖し、数種の病原因子を産生する。最も重要な病原因子は耐熱性溶血毒(Vp-TDH)である。Vp-TDHは溶血作用の他に、腸管毒性、致死活性を有しており、この毒素によって下痢などの症状が起こる。
発症には10⁷~10⁹個以上の多量の菌の摂取が必要とされる。
【症状等】
潜伏期間は10~18時間。
激しい上腹部痛と水様性下痢、時に血便も起こる。
しばしば発熱(37~38℃)や嘔吐、吐き気が見られる。
通常、1~3日で回復するが、稀に心筋異常によって死亡することもある。
- その他のビブリオ
1)ナグビブリオ
ナグビブリオは、血清型O1のコレラ菌に対する抗血清によって凝集しないコレラ菌。主に淡海水域に生息している。
【症状等】
水様性下痢、腹痛、嘔吐、発熱、時に粘血便がみられる。
2)ビブリオ・バルニフィカス
沿岸海水域に生息し、汚染された魚介類の摂取や皮膚の創傷などから感染する。
健常成人での発症はほとんどしないが、慢性肝疾患、糖尿病やヘモクロマトーシス(血色症)の患者、鉄材剤服用者では感染・発症の危険性が高い。
【症状等】
悪寒、発熱、紫斑、水疱、血疱、などの皮膚所見、血圧低下、敗血症などの重篤な経過をとる。
- 生体内毒素型の大腸菌
感染型の下痢性大腸菌と異なり、毒素型の大腸菌として腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管凝集付着性大腸菌(EAggEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)がある。
1)腸管毒素原性大腸菌(ETEC)
熱帯・亜熱帯地方の発展途上国におけるもっとも重要な感染症の1つである。発展途上国では飲料水を介した水系感染が多いが、日本国内では、給食や仕出し弁当が原因である事が多い。
定着因子である線毛によって上皮細胞に付着して増殖し、易熱性エンテロトキシン、耐熱性エンテロトキシンのどちらかに一方または両方を産生して下痢や腹痛を起こす。
ETECによる食中毒は毎年10~20件発生しており、そのうち数件が集団発生で給食や仕出し弁当が原因である事が多い。
【症状等】
下痢や腹痛
2)腸管凝集付着性大腸菌(EAggEC)
EAggEC下痢症は開発途上国の乳幼児によく見られるが、自然界での分布は不明である。
AAF/Iという線毛によって上皮細胞に凝集塊状に付着する。そこで増殖して産生された耐熱性エンテロトキシンEAST1によって下痢が起こる。
【症状等】
下痢
3)腸管出血性大腸菌(EHEC)
EHECは主に、ウシ、ヒツジなどの家畜の腸管内に存在している。これらを汚染源とした畜産食品や二次汚染された様々な食品が感染原因となる。
ETEC同様に上皮細胞に付着し、そこで増殖した菌が産生するベロ毒素の作用によって激しい腹痛や出血性大腸炎を起こす。幼小児や高齢者が感染すると溶血性尿毒症症候群を併発して死亡することも稀ではない。
ベロ毒素には1型と2型があるが、毒作用の逝く機序は同じである。
1996年にEHECによる集団食中毒が多発した。特に大阪府堺市の小学校62校で発生した給食が原因になった事例は患者数5,700人を超える世界でも類を見ない大規模なものであった。この年の患者総数は9,451人に達し、12人が死亡した。
これ以降も年間数件から数十件の集団事例が発生している。
原因菌の血清型はO157が大部分であったが、近年はO26やO111が増加してきている。
2011年には焼肉チェーン店でのユッケ喫食者に広域集団食中毒が発生。原因病原菌はEHEC O111で患者数は181人でその内、死者は5人であった。
食材である牛肉のの卸元及び店舗での不適切な取り扱いが根本原因。
卸元と飲食店側が罪のなすりあいをしていた事が思い出されます。
【症状等】
激しい腹痛や出血性大腸炎、幼小児や高齢者が感染すると溶血性尿毒症症候群を併発して死亡することがある。
4.その他の病原菌による食中毒
- 第3類感染症
1)赤痢菌
赤痢菌は3類感染症である細菌性赤痢の病原体で、通性、無芽胞、非運動性のグラム陰性桿菌である。
赤痢菌はA~Dの4亜群に分けられる。
このうちの志賀菌(A)は外毒素として志賀毒素を産生する。この志賀毒素は腸管出血性大腸菌が産生する1型ベロ毒素と全く同一のものである。
代表的な便口感染症である細菌性赤痢は患者もしくは保菌者の糞便から直接感染するか、汚染された手指、食品、食器、飲料水、便所のドアの取っ手やタオルなどを介して感染する。
最近の我が国の患者発生数は500人未満だが、その70%は主に東南アジアでの国外感染事例である。
通常、2~3日の潜伏期を経て発症する。
【症状等】
腹痛、下痢、発熱、重症例では濃粘血便を伴う。
細菌は軽症例や無症状例もあるが、幼小児が感染すると時に中枢神経及び循環器障害を伴う疫痢の経過をとり、死に至ることもある。
2)コレラ菌
コレラ菌は通性、極単毛性鞭毛を有するバナナの房状のグラム陰性桿菌である。分類学上のコレラ菌は多くのO血清型がある。
コレラの原因となる菌は従来は血清型O1の内のコレラ毒素を産生する菌だけであるとされてきた。しかし、1992年にインド、バングラディッシュなどで大流行したコレラの原因菌は血清型がO139であったため、O139ベンガル型コレラ菌(V.cholerae O139 Bengal)と名付けられた。
コレラ菌(V.cholerae O1) にはにはO抗原の型特異因子にょって分類される血清型と生物学的性状によって分類される生物型(古典型とエルトール型)がある。現在、東南アジアや日本での流行株は生物型がエルトール型であるにも関わらす古典的コレラ毒素を産生するV.cholerae O1 エルトール変異株がほとんどである。
コレラ菌で汚染された水や食品を摂取したのち、菌が小腸下部の粘膜上皮細胞をに定着して増殖し、外毒素を産生する事によって発症する。コレラ発症にかかわるもっとも主要な外毒素はコレラ毒素である。
【症状等】
米のとぎ汁様の激しい下痢に伴う重度の脱水と、それに伴う電解質の欠乏。
単に軽い下痢、または軟便で終わる事も多い。
3)チフス菌およびパラチフスA菌
パラチフスの原因菌である。
チフス菌もパラチフスA菌もヒトにのみ感染する。感染後2週間でおもに糞便中に排泄されるので患者および保菌者の糞便が主な感染源になる。
チフス菌は感染力が強く、患者との接触により直接、あるいは飲食物を介して間接的に感染する。
腸チフス患者はしばしば胆嚢に菌が潜在して長期にわたる無症状保菌者へ移行する。無症状保菌者の胆嚢内の菌は腸管内に排菌され、その糞便が新たな感染源になる。感染予防には保菌者の監視が重要。
【症状等】
感染後、1~2週間の潜伏期間を経て発病する。
主な症状は、高熱、脾腫、バラ疹、白血球の減少。重症の場合、腸出血。
パラチフスも同様な経過であるが、腸チフスより軽症。
- 人獣共通感染症としての食中毒
病原体が人と動物の間を相互に移行する感染症を人獣共通感染症と言う。人獣共通感染症の病原体にはウィルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫のどれも含まれるが、食中毒の原因となる病原体の多くは細菌である。
1)リステリア症
リステリア症は周毛性鞭毛をもつグラム陽性短桿菌であるリステリア・モノサイトゲネスによる感染症。この菌は4℃でも発育する。
ウシ、ブタ、ニワトリなどの家畜、げっ歯類、魚類、土壌、下水、河川水など、自然界に広く分布しており多くの食品が汚染される。
加熱せずに摂食する食肉製品やナチュラルチーズのような乳製品の汚染頻度が高い。
感染しやすいハイリスクグループは妊婦、幼小児、高齢者、糖尿病や肝疾患などの基礎疾患のある患者である。ハイリスクグループの人が感染すると、髄膜炎や敗血症を起こす事が多く、妊婦の場合は死産の原因にもなる。
健常成人では無症状に経過する事が多い。
日本では、2001年に発生した患者数19人の集団発生1事例のみが報告されている。
【症状等】
ハイリスクグループの人が感染すると、髄膜炎や敗血症。
妊婦の場合は死産の原因にもなる。
2)炭疽
炭疽は世界の多くの地域で発生している。炭疽菌は酸素と接触することによって芽胞を形成して、熱、乾燥、消毒薬などに対する強い抵抗性を獲得し、土壌中などで長期間生存し、動物に感染を繰り返す。芽胞が生体内に侵入すると発芽し、栄養型として体内で急速に増殖して炭疽を発症する
炭疽菌は創傷感染、呼吸器感染、経口感染し、それぞれの感染部位に炭疽を起こす。食品(主に汚染食肉)介した経口感染による症状は腸炭疽といわれる出血性腸炎であり、一般に重症である。
日本における炭疽の発生例は、ヒトでは1994年の皮膚炭疽の報告、動物では2000年の牛の炭疽の報告を最後に発生していない。しかし第二次大戦以前には牛で年間100頭以上、馬で年間数十頭の炭疽が国内で報告されていた。
【症状等】
初期症状として悪心、嘔吐、食欲不振、発熱。
次いで腹痛、腹水貯留、吐血をあらわし、血液性の下痢を呈する場合もある。敗血症へと移行すると、ショック、チアノーゼを呈し、死亡する。
腸炭疽の死亡率は25~50%とされる。
3)ブルセラ症
ブルセラはグラム陰性の球菌に近い短桿菌である。食品が感染源となるブルセラ症の病原体はメリテンシス菌、ウシ流産菌およびブタ流産菌である。人が感染すると、全身性疾患である波状熱を起こす。日本国内では乳牛にブルセラ症が見られるものの、その頻度は極めて低い。
国内でも、かつては牛でブルセラ病が流行したが、1973 年以後は清浄性が維持されている。現在でも家畜伝染病予防法に基づき搾乳および繁殖用の牛は 5 年に 1 回以上の検査が義務づけられ、年間約 35 万頭が検査され、0~1 頭が患畜として摘発されているが、ブルセラ菌は分離されておらず非特異反応と考えられる。
ブルセラ食中毒の予防は感染している動物の肉やを非加熱のまま摂取しない事である。海外では殺菌処理が不明な乳製品を摂取しないよう十分な注意が必要である。
【症状等】
全身的な疼痛感、倦怠感、衰弱、及び、うつ状態と、 持続的、間欠的、または不規則な発熱。
治療は、ブルセラ属菌が細胞内寄生性を持つため、抗菌薬の長期間投与が必要。
4)結核
人に結核を起こす菌はヒト結核菌、ウシ結核菌、マイコバクテリウム・アフリカヌムなどである。
このうち、食品によって媒介される結核の原因となるのはウシ結核菌である。ウシ結核菌は本来ウシに結核を起こす菌である。
罹患ウシは乳汁中に排菌いているので、感染牛の未殺菌乳やそれから作られた乳製品を摂取する事によって感染する。
汚染された食品を摂取すると腸から感染し、泌尿器、生殖器、骨、関節などの肺以外の臓器・組織に病変が発生する。
国内では結核菌に感染した乳牛はほとんど見られず、市販牛乳は殺菌処理されているので経口感染による人の結核はほとんど無い。
海外旅行などの際は加熱殺菌の有無が明確でない乳製品の摂取は避けた方がいいだろう。
【症状等】
下痢や発熱、結核性腹膜炎を合併など。死亡例もある。
5.アレルギー様食中毒
食品に蓄積したアミン類などを摂取することによりアレルギー症状が見られるものをアレルギー様食中毒と言う。
一般的に、ヒスタミンが食品1g中に1mg以上蓄積するとアレルギー様食中毒を発症する。多くは12時間以内に回復するが、抗ヒスタミン剤の投与が効果的である。
ヒスタミンは赤身の魚などに多く含まれているヒスチジンから、モルガン菌などの細菌が有している脱炭素酵素により生成される。この反応は酸性の条件下において起こる。またヒスタミンは熱に対して強く、食品を焼いても揚げても分解しないので注意は必要である。
おもな原因食品は、赤身魚やその加工品である。海外ではワインやチーズなどによる食中毒が報告されている。
【症状等】
摂取後1時間以内に発症し、上半身を中心とした全身の紅斑、ジンマシンのような発疹、頭痛、発熱などの症状を呈する。
ウィルス性食中毒
- ノロウィルス
ノロウィルスは感染力が非常に強く、少量のウイルスでも感染する。
下痢便中にノロウィルスが検出される胃腸炎は生ガキの摂取と関連が深い事が疫学的に明らかにされた。しかし、大規模ノロウィルス集団食中毒の殆どすべての事例では、原因食品はカキではなくノロウィルスに感染した調理従事者の糞便に直接または間接的に汚染された色々な食品であると推測されている。その為、ドアのノブ、水道水の蛇口、タオルなどを介した汚染、患者の糞便や嘔吐物による飛沫感染やや摂食感染によって食中毒以外の感染症(ヒト→ヒト感染)も多く、感染症法により5類感染症の「感染性胃腸炎」として取り扱われる、なお、カキの細胞中では増殖出来ないノロウィルスがカキに蓄積される原因は、ノロウィルスに感染したヒトに糞便などに汚染された生活排水が河川を経由して海水中に流入し、そこに生息するカキなどの2枚貝の中腸腺に蓄積されると考えられる。
ノロウィルスは85℃で1分間以上の加熱で不活性化する。ただし、食品中のノロウィルスの不活性化の為には中心温度が85℃~90℃で90秒以上の加熱が必要とされる。
ノロウィルス対応の場合、調理器具の消毒はアルコールや逆性石鹸では効力が弱い為、次亜塩素酸ナトリウムや熱湯を使用する。
【症状等】
ノロウィルスに汚染された食品を摂取したのち、24~48時間の潜伏期間を経て発症。
主な症状は嘔吐、下痢、腹痛、吐き気、発熱で、通常1~2日で回復するが、乳幼児、高齢者、体力の弱っている人では嘔吐、下痢に伴う脱水が重症化する場合がある。
また、嘔吐物による窒息も起こりうるので、特に乳幼児や高齢者は注意が必用。
- A型肝炎ウィルス(HAV)、E型肝炎ウィルス(HEV)
A型肝炎ウィルス(HAV)、E型肝炎ウィルス(HEV)はエンベロープを持たないRNAウィルス。感染症法の規定により4類感染症に類型され、診察した医師は全診療症例の届出が義務付けられている。
A型肝炎ウィルス(HAV)はヒト及びその他の霊長類にだけ感染する。一方、E型肝炎ウィルス(HEV)は霊長類の他にブタ、イノシシ、シカ、ウサギ、ニワトリなどの動物にも感染する。
A型肝炎ウィルス(HAV)、E型肝炎ウィルス(HEV)は経口感染である。主な原因食品は、A型は生ガキなどの魚介類、寿司、飲料水。E型はブタ、イノシシ、シカの肉及び肝臓などの内臓である。
発展途上国では汚染された飲料水を介してA型肝炎ウィルス(HAV)、E型肝炎ウィルス(HEV)の集団感染が多発している。
A型肝炎ウィルス(HAV)、E型肝炎ウィルス(HEV)は85℃以上の加熱で不活性化する。
【症状等】
汚染された飲食物を摂取すると、ウィルスは腸管門脈から血中に入り、肝細胞に感染し急性肝炎を起こす。
A型肝炎の潜伏期間は平均24日。症状は発熱、全身倦怠感、食欲不振、黄疸、肝腫大など。症状は一般的に軽症で慢性化する事は無い。高齢者では稀に劇症化する場合がある。
E型肝炎の潜伏期間は平均28日。症状はA型肝炎と酷似している。E型肝炎の致死率は1~2%程度であるが、妊婦に感染すると劇症化しやすく、致死率は20%になると言われる。
双方、潜伏期間が長く、感染源の特定が困難な事が多い。
寄生虫
自然毒
化学物質
魚介類の食中毒
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